あなたは世界を見る窓だから
ミルク寒天が無性に食べたくなりました。
ミルク寒天は甘い牛乳にたいていは缶詰のミカンが入った、素朴で少し野暮ったいけど善良な感じの食べ物です。
パンナコッタの濃厚さもヨーグルトムースの爽やかさもない、うす甘い乳とフレッシュ感のない果物の組み合わせ。
正直今まで一度も食べたいと思ったことがなく、実際食べたこともない。
なのに、なぜこんなに体が求めているのか。これはもう、セブンイレブンに走って行って解決するレベルではない。大きいバットになみなみと注がれた白いつるんとした塊をきっちりと立方体に切り分けてガラスの器に盛りつけたうえでばくばく食べたい。流し込みたい。
となると自分で作るしかない。
ミルク寒天の作り方は、水に寒天を入れて沸騰させる(1)、寒天が溶けたら砂糖と牛乳を加える(2)、缶詰のミカンを混ぜて固まるまで待つ(3)の3工程です。
3つしかない手順のうち、レシピは2つ目まで「お湯に寒天を入れたらダマになるから必ず水から!」とか「先に砂糖入れたら寒天が溶けなくなるから砂糖入れるのは寒天が溶けた後!」とか、それはそれは丁寧に理由を説明してくれていたのにミカンのくだりになった途端、「缶詰は中身だけ使って汁は捨てる」。いきなり切り捨て。問答無用。
汁、使わないんですか?私、けっこうあの汁好きなんですけども。
添加物NOとかそういう系ですか?でも中身使ってる時点であんまり意味ないと思うんです。少なくとも私は気にしないし、どうせ砂糖いれるなら汁ごと一緒に入れてもいいですよね。そのほうがより酸味が強まって好みだし、捨てるのももったいないんで。
はい、牛乳、分離しました。
一瞬の変化。まるで理科の実験。
大量に作っていた分、大量にできたかつて牛乳だったモロモロした液。
ところどころに顔を出す鮮やかなオレンジ色ももはや小狡くて忌々しい。
完全勝利の目前で全部ひっくり返されたオセロの盤面を眺めるかのごとく、呆然としている私を尻目に、ひっそりと固まっていく白いチリを寄せ集めたようなみじめな寒天。
牛乳は酸と混じると凝固する、だから缶詰ミカンの汁は使わない。
それは言わなくてもわかることなのか、それとも理由なんか知らなくても使わないと言われたら使わないものなのか。
どっちにしろ、私はもう次にミルク寒天を作るときは同じ失敗をしないし、この冴えない体験が私と同じタイプの人の参考になるかもしれない。
それが婚活体験記を書いてみようかなと思った理由だったりします。